医療・福祉・教育の垣根がなくなり、多職種連携が進むなかで、言語聴覚士のダブルライセンスが注目を集めています。
「もっと専門性を広げたい」「他分野の知識を活かして支援したい」と考えるSTが増え、働き方の選択肢も多様化しています。
本記事では、言語聴覚士がダブルライセンスを取得するメリット・デメリット・人気の資格組み合わせ・取得ルートを具体的に解説します。
自分に合ったキャリアの方向性を明確にしたい方に役立つ内容です。
言語聴覚士に「ダブルライセンス」という選択肢が注目される理由
言語聴覚士(ST)がダブルライセンスを目指すのは、医療や福祉などの分野が重なり合う現場が増えているためです。
かつて言語聴覚士(ST)の主な職場は、病院やリハビリ施設が中心でした。
しかし今は、地域や家庭など「生活の場」で支援を行うケースが増え、「生活支援の専門職」としての役割が広がっています。
その変化に対応するため、複数の資格を組み合わせて利用者をより包括的に支える人材が注目されています。
医療・福祉の「垣根を越えた」連携が進んでいる
医療や福祉の現場は、これまでの「病院で完結する支援」から、地域全体で利用者を支える地域包括ケアシステムへと移り変わっています。
この仕組みでは、医師・看護師・リハ職(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)に加え、介護職・保育士・心理士なども連携しながら、生活全体を支える体制が求められています。
こうした現場では、一つの専門分野だけでは対応できない課題が増えています。
たとえば、高齢化に伴い「失語症」や「嚥下障害」に加え、介護力不足・栄養不良・心理的落ち込みなど、複数の問題が同時に起こることも少なくありません。
このため、STにも医療・教育・福祉を横断して考えられるスキルが必要とされるようになりました。
つまり、「ダブルライセンス」は単なる資格の追加ではなく、現場の変化に対応するための新しいキャリア戦略です。
多職種と協力しながら、一人ひとりの生活を支えるための手段として選ばれているのです。
言語聴覚士の専門性だけでは対応しきれないケースの増加
言語聴覚士は「話す」「聞く」「食べる」を専門とする国家資格ですが、現場では専門技術だけでは解決できないケースに直面することもあります。
たとえば、摂食嚥下リハビリで嚥下機能が回復しても、心理的な不安や栄養管理の問題によって「食べたくない」状態が続くことがあります。
- 栄養面の問題・・・適切な食事設計がされていない(栄養士・医師の領域)
- 心理的要因・・・うつや拒食傾向など(臨床心理士の領域)
- 身体的要因・・・食事姿勢や手の動きに支障がある(作業療法士の領域)
また、こどもの発達支援でも、STが言語訓練を行おうとしても集中できないことがあります。
その背景には、あそびや情緒的安定といった「保育士の専門領域」に関わる要素が影響していることも少なくありません。
このように、機能が改善しても生活が変わらない——そんな課題を前に、「もっと広い視点で支援したい」と考えるSTが、ダブルライセンスの取得を目指しています。
ダブルライセンスで広がる言語聴覚士のキャリア
言語聴覚士は、医師や理学療法士に比べて比較的新しい資格で、キャリアモデルがまだ確立されていません。
その中で、「他資格×言語聴覚士」の組み合わせが新しい働き方として広がっています。
言語聴覚士は、保険外(自費)領域での開業が認められている数少ないリハ職です。
たとえば、「言語聴覚士×臨床心理士」なら、失語症リハと心理カウンセリングを一体的に提供。「言語聴覚士×保育士」なら、言語訓練と遊び・情緒支援を融合した療育施設を運営することができます。
さらに最近では、複業(副業)として「言語聴覚士×看護師」の専門講師を務める人も増えています。
このように、複数の資格を掛け合わせることで、働き方の自由度と市場価値の両方を高められるのです。
次の章では、言語聴覚士がダブルライセンスを取得する具体的なメリットとデメリットを解説します。
資格を取ることが自分にとって本当に「プラス」になるのか、一緒に整理していきましょう。
言語聴覚士がダブルライセンスを取得するメリットとデメリット
言語聴覚士(ST)がダブルライセンスを取得することは、キャリアの可能性を広げる有力な選択肢です。
一方で、資格を増やすには時間と費用の負担、そして専門性のバランスというリスクも伴います。ここでは、現場のリアルに基づいてその両面を整理します。
メリット①業務の幅が広がり、転職や独立にも強い
複数の資格を持つ最大の利点は、一人で多面的な支援ができることです。
たとえば、脳卒中後のリハビリでは「言語聴覚士×作業療法士」の資格を持つ人材なら、言語訓練と同時に上肢機能やADL(日常生活動作)の訓練まで一貫してサポートできます。
また、「言語聴覚士×保育士」であれば、発達障がい児の言語指導に加え、あそびや情緒面の支援まで行えるため、こどもの発達を総合的に支えられます。
これは単なる「業務の足し算」ではなく、「スキルの掛け算」です。
求人市場では、児童発達支援施設や訪問リハなど、複数の専門性を一人で担える人材が非常に重宝されています。
とくに人材確保が難しい小規模施設では、「言語聴覚士×保育士」「言語聴覚士×看護師」といったダブルライセンス保持者が採用の最有力候補になることも珍しくありません。
こうした多能性(マルチスキル)は、独立・開業時にも強みを発揮します。
メリット②他職種との理解が深まり、連携がスムーズに
現場では、医師・看護師・介護職・リハ職が関わる「チーム医療」が一般的です。
しかし、それぞれの職種には専門用語や価値基準が異なるため、意見がすれ違うこともしばしばあります。
たとえば、言語聴覚士が「経口摂取(口から食べる)」を優先したいのに対し、看護師は「誤嚥性肺炎のリスク」を重視して慎重になる――そんな場面です。
このとき「言語聴覚士×看護師」の資格を持つ人であれば、看護視点でのバイタルサイン(体調指標)や呼吸状態を理解し、共通の言語でリスクを説明できます。
「SpO₂(酸素飽和度)を確認しながら、ギャッチアップ60度でゼリー食を試す」など、根拠を示して話し合えることが、信頼されるSTの条件です。
つまり、ダブルライセンスは「他職種の思考法を理解できる力」をもたらすということです。
チーム内の摩擦が減り、患者や利用者にとって本当に安全で効果的な支援を実現しやすくなります。
デメリット①時間と費用の負担が大きい
最大の壁は、取得にかかるコストです。
たとえば、STが新たに作業療法士や看護師を目指す場合、再び3〜4年の学校生活が必要になります。
学費だけでも数百万円、さらに在学中はフルタイム勤務が難しいため、働けない間の損失も発生します。
医療系資格の多くは実習が必須で、通信制では取得できません。
夜間コースを選んでも、日中は常勤勤務を続けられないケースがほとんどです。つまり、「収入を一時的に捨てて投資する」決断が求められるのです。
このため、ダブルライセンスは勢いで取るものではなく、長期的なキャリア設計に基づいた投資判断として考える必要があります。
デメリット② 専門性が分散しすぎるリスク
資格を増やすほど、「どっちつかず」になるリスクもあります。
大規模な病院では、特定分野に精通したスペシャリスト(専門特化型)が評価される傾向にあり、「ST10年の経験者」が「ST5年+OT5年」の人より高く評価されることもあります。
一方、小規模施設や在宅支援では、1人で複数業務をこなせる多能型の人物が重宝されます。
どの働き方を目指すかによって、ダブルライセンスの価値は真逆になります。
資格を増やせば良いわけではなく、「自分のキャリア軸に沿った専門性の深さ」を保つことが何より大切です。
ダブルライセンスを取らない選択も「戦略」の一つ
すべてのキャリアアップがダブルライセンスで実現できるわけではありません。STとして専門性を深める「垂直方向」の成長戦略も、同じくらい価値があります。
代表的なのが、日本言語聴覚士協会が認定する「認定言語聴覚士」。
摂食嚥下障害や高次脳機能障害など、6分野の専門領域で研修と試験を経て認定される制度です。
また、「LSVT LOUD(発声訓練プログラム)」などの特定技術資格も、STとしての実力を磨く有効な手段です。
このように、水平展開(資格を増やす)か、垂直深掘り(専門性を高める)か。
どちらを選ぶかは、あなたが「どんなSTになりたいか」で決まります。
次の章では、実際に言語聴覚士がダブルライセンスの取得を目指す場合にどの資格の組み合わせが有利か、相性の良い4つのパターンを具体的に紹介していきます。
言語聴覚士と相性が良いダブルライセンスの組み合わせ4選
言語聴覚士(ST)の専門性を核に、隣接する「作業療法士」「保育士」「看護師」「歯科衛生士」とのダブルライセンスは、現場の需要が特に高く、就職・転職・独立のいずれにおいても強力な武器になります。
作業療法士×言語聴覚士のダブルライセンス
リハビリ分野では、ST(言葉や嚥下の専門)とOT(体の動きや日常動作の専門)が協力することで、大きな効果を発揮します。
脳梗塞や脳出血後の患者は、身体の麻痺と同時に言語障害や高次脳機能障害を併発することが多く、両者の連携が欠かせません。
①評価の統合
認知機能(ST)と動作能力(OT)を同時に評価でき、より実生活に即したリハビリ計画が可能。
②訓練の統合
嚥下訓練と姿勢調整(ポジショニング)を一体的に実施できる。
③心理的支援
両職種が扱う「心のケア」の視点を併せ持ち、患者に寄り添える。
教育分野でも、この組み合わせのニーズは高まっており、作業療法士(OT)と言語聴覚士(ST)の両方を学べるカリキュラムを設ける養成校も増えています。
それだけ、体とことばの両面から利用者を支援できる専門家が求められているということです。
患者の「体の動き」と「話す・食べる機能」を一人で評価・訓練できる人材は貴重で、医療・福祉の現場でも高く評価されています。
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保育士×言語聴覚士のダブルライセンス
小児分野で働きたい言語聴覚士にとって、保育士資格は現場で即活かせる実践的な組み合わせです。
言葉の発達と心の安定は深く結びついており、特に児童発達支援や療育の現場では、こどもが安心して関われる環境づくりそのものが訓練の成果を左右します。
①「訓練」から「あそび」へ切り替える力
たとえば、構音訓練(発音練習)に集中できないこどもに対し、保育士として「積み木あそび」「ごっこあそび」などを通じて自然に発音を促す工夫ができます。
遊びの中に「発音」「語彙」「会話」などの目標をさりげなく組み込むことで、こどもは楽しみながら訓練を続けられます。
②保護者支援の強化
言語聴覚士としての専門的な発達評価に加え、保育士として家庭生活の視点から助言ができます。
たとえば「食事中の声かけ」「遊びながらの言葉の使い方」など、家庭ですぐに実践できるアドバイスを具体的に伝えられるようになります。
このように、言語聴覚士×保育士のダブルライセンスを持つ人は、個別訓練と集団活動の両方に強くなります。
実際、児童発達支援センターでは「言語聴覚士+保育士」が一人で個別訓練と集団療育を担当する体制も増えており、専門性と柔軟性を兼ね備えた人材として高く評価されています。
看護師×言語聴覚士のダブルライセンス
病院や高齢者施設など、医療依存度の高い現場では「言語聴覚士×看護師」の組み合わせが特に高く評価されています。
看護師としての全身管理能力と、STとしての嚥下・コミュニケーション機能評価を両立できるため、リスクの高い患者にも早期介入が可能になります。
①リスク管理力の向上
嚥下訓練を行う際、看護師資格を持つSTであれば、血圧・脈拍・SpO₂(酸素飽和度)・呼吸状態などの変化を看護視点で把握できます。
たとえば、肺炎を繰り返す患者でも「今の呼吸音なら訓練を中止すべき」「この時間帯なら安全に経口摂取が可能」といった判断ができるため、誤嚥や体調悪化のリスクを最小限に抑えたリハビリが実施できます。
②ケアの一元化
嚥下訓練中に痰が詰まった場合でも、看護師資格を持つSTならその場で喀痰吸引を行い、呼吸状態を整えてから訓練を再開できます。
また、経管栄養のタイミングや栄養剤の種類についても、医療的根拠を理解した上で家族や介護スタッフに指導でき、訓練からケアまでを一貫して管理できます(※施設の規定による)。
③チーム医療の要(ハブ的存在)
医師・看護師・理学療法士・作業療法士など、多職種が関わるリハビリチームの中で、言語聴覚士×看護師は「安全性とリハ効果のバランス」を説明することができます。
たとえば、「食事を再開する際のタイミング」や「リハビリ中のモニタリング項目」について、医療的な根拠を示しながら共通言語で提案できるため、チーム全体の合意形成がスムーズに進みます。
医療現場での言語聴覚士×看護師のダブルライセンスは非常に市場価値が高い組み合わせです。
歯科衛生士×言語聴覚士のダブルライセンス
「食べる」「話す」という行為の根幹にあるのは、口腔の健康と機能です。
言語聴覚士のリハビリと、歯科衛生士のケアの両資格を持つことで、口腔機能の維持と衛生管理を一体的にサポートできます。
①口腔ケアとリハビリの融合
歯科衛生士とSTの資格を併せ持つ人は、「清潔を保つケア」と「機能を回復させる訓練」を一人で行えるのが強みです。
たとえば、嚥下機能が低下した高齢者に対し、まず歯垢や舌苔(ぜったい)の除去を行い、口腔内を清潔に保った上で、舌や口周りの筋肉を動かすリハビリを実施。
これにより、感染症(特に誤嚥性肺炎)のリスクを減らしながら、「安全に食べる力」を効率的に取り戻す支援ができます。
②医科歯科連携の中核
歯科衛生士×STの資格を持つ人は、歯科医院や病院の口腔外科で医師と歯科医師の橋渡し役として活躍できます。
たとえば、がん治療後や脳卒中後で嚥下機能が落ちている患者に対し、STとして嚥下評価(飲み込みテスト)を行い、その結果をもとに歯科医師へ義歯調整や口腔内形態の改善を提案。
一方で、口腔清掃やケアの手技に関しては、歯科衛生士としての専門知識で患者や介護スタッフに指導できます。
高齢化で需要が急増する「口腔・嚥下ケア」領域において、この組み合わせは今後ますます注目されるでしょう。
次の章では、これらのダブルライセンス取得するまでの流れと学習のポイントを解説します。
働きながら資格を取る方法や学費・期間の目安を、現実的な視点で整理していきます。
言語聴覚士がダブルライセンスを取得するまでの流れ
言語聴覚士がダブルライセンスを取得する際、最大の課題は「現職を続けながらどう学ぶか」です。
資格の種類によって取得ルートや難易度、費用、期間が大きく異なるため、現実的な計画を立てることが成功への第一歩になります。
現職を続けながらダブルライセンスを取得する
働きながら学ぶ場合、選べるルートは大きく3つに分かれます。それぞれにメリット・デメリットがあり、資格の性質によって適性が異なります。
① 試験合格ルート(独学・現職と両立可能)
対象資格・・・保育士、ケアマネジャー
保育士は、大学・短大卒のSTであれば受験資格を満たしているケースが多く、独学でも挑戦可能です。
ケアマネジャーは、STとしての実務経験5年以上が受験要件であり、現職を続けながら準備できる数少ない国家資格の一つです。
このルートはキャリアを中断せずに受験できる点が最大の魅力ですが、保育士試験は合格率が20〜30%前後と難関です。そのため、計画的な学習スケジュールが必須です。
② 通信制ルート(通信学習+スクーリング)
対象資格・・・保育士、社会福祉士、認定心理士など
通信制大学や短大の養成課程に入学し、働きながら自宅学習で単位を取得します。
ただし、数日〜数週間のスクーリング(対面授業)や、保育士などでは実習のための長期休暇が必要です。
このため、通信制でも職場の理解とスケジュール調整が欠かせません。
③ 夜間・専門課程ルート(通学必須)
対象資格・・・作業療法士、看護師、歯科衛生士など
いずれも実習が必須で、夜間3〜4年の通学が必要です。日中は関連病院などで非常勤勤務し、夜間に講義を受けるスタイルが一般的です。
STとして常勤を続けるのはほぼ不可能であり、生活スタイルを根本的に変える覚悟が求められます。
学費・期間・カリキュラムの目安
言語聴覚士としての学歴や取得単位が、一部の大学では「単位認定」として引き継がれる場合があります。
これは、すでに修得した授業内容が重複していると判断された場合に、新しい学校で同じ科目の受講が免除される仕組みです。
ただし、認定の対象になるのは一般教養科目など一部に限られ、
専門科目や臨床実習が免除されることはほとんどありません。
そのため、実際には学費や学習時間の負担は相応に大きいと考えておく必要があります。
資格別・取得ルート別 費用と期間の目安(言語聴覚士・現職者の場合)
| 資格 | 取得ルート | 標準期間 | 費用の目安 | 主な学習方法 | 実習の有無 | 両立難易度 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 作業療法士(OT) | 専門学校(夜間) | 3〜4年 | 300〜500万円 | 通学・実習あり | 必須 | ★★★★★(極めて困難) |
| 保育士 | 養成校(通信) | 2〜3年 | 50〜100万円 | 通信+スクーリング | 必須 | ★★★☆☆ |
| 保育士 | 国家試験(独学) | 1〜3年 | 10〜30万円 | 独学+実技試験 | あり | ★★☆☆☆ |
| 看護師 | 専門学校(夜間) | 3〜4年 | 300〜500万円 | 通学+実習 | 必須 | ★★★★★ |
| 歯科衛生士 | 専門学校(夜間) | 3〜4年 | 300〜450万円 | 通学+実習 | 必須 | ★★★★★ |
| 臨床心理士 | 大学院(修士) | 2年 | 150〜300万円 | 通学(昼夜) | あり | ★★★★☆ |
| ケアマネジャー | 実務経験+試験 | 約5年+受験期間 | 5〜15万円 | 独学+研修 | なし | ★☆☆☆☆ |
実習や国家試験のスケジュール感を把握する
実は、働きながらのダブルライセンス取得で最も壁になるのが「実習」です。
作業療法士、看護師、歯科衛生士、保育士などの資格は、数週間〜数ヶ月単位で日中フルタイムの実習が義務付けられています。
たとえば、STとして働きながら夜間のOT学校に通う場合、3年次に「8週間の臨床実習」が発生します。
この期間は職場を長期で離れる必要があり、現職のまま実習を行えるケースは稀です。
したがって、入学前には必ず「実習時期・期間」を確認し、
- その期間に休職・無給対応が可能か
- 実習期間中に生活費を確保できるか
この2点をシミュレーションしておくことが、計画の成否を分けます。
次の章では、ダブルライセンスに向いている人・慎重に検討すべき人の特徴を紹介します。
ダブルライセンスの取得が向いている人・向かない人
ダブルライセンスの取得は、すべての言語聴覚士にとって最適な選択とは限りません。
資格を増やすことが目的になってしまうと、時間や費用を失うだけでなく、キャリアの方向性を見誤るリスクもあります。
ここでは、自分にとっての「向き・不向き」を見極める3つの視点を整理します。
①多角的に支援したい・学ぶことが好きな人に向いている
ダブルライセンスに向いているのは、「患者さんの支援をもっと広い視点で行いたい」「心と体の両方を支えたい」という探求心を持つ人です。
こうしたタイプは、変化の激しい医療・福祉の現場をストレスではなく「学びの機会」と捉えられる傾向があります。
たとえば、失語症の訓練をしていて「心理的要因も影響していそうだ」と気づいたとき、「臨床心理士の視点も学びたい」と感じられる人。
それが、まさにダブルライセンスに向いているタイプです。
このような人にとって、学びの負担は「苦労」ではなく「成長の喜び」です。
資格よりも「現場力」を磨きたい人は慎重に
一方で、専門領域の深さを極めたいタイプは、ダブルライセンスを慎重に検討すべきです。
特定の分野で「嚥下のことならあの言語聴覚士に聞け」と信頼されるようなスペシャリストを目指す人にとって、資格を増やすことはかえって遠回りになる可能性があります。
たとえば、作業療法士資格を取るために3年間学んだ場合、その間に得られたはずのSTとしての臨床経験を失います。
もしその時間を「認定言語聴覚士」や「LSVT LOUD(音声訓練)」「呼吸ケア指導士」などの専門研修に充てていれば、STとしての現場力はさらに高まっていたはずです。
つまり、ダブルライセンス=万能ではないということです。
キャリアゴールが「言語聴覚士として専門性を極めたい」のであれば、他資格を増やす「横の広がり」ではなく、STの専門性を深める「縦の深掘り」を選ぶ方が合理的です。
たとえば、日本言語聴覚士協会が認定する「認定言語聴覚士」や、LSVT・呼吸ケア指導士などの専門研修を受けることで、一分野のスペシャリストとして高い専門性を築くことができます。
ダブルライセンスへの挑戦に迷ったときの判断軸は?
「挑戦すべきかどうか」を判断するには、以下の4つの軸を使うと整理しやすくなります。
| 判断軸 | 自問すべきポイント | 具体的な考え方 |
|---|---|---|
| ① 将来像(Vision) | 5〜10年後、どんな場所でどんな価値を提供していたいか? | 例・・・「在宅でSTもOTも見られるセラピスト」→ ST×OT/「療育施設を開業」→ ST×保育士・心理士 |
| ② 費用(Cost) | 数百万円の学費・数年の収入減を許容できるか? | 学費だけでなく「機会費用」も考慮。機会費用とは、資格の勉強に使う時間を別のことに使っていれば得られたはずの収入や経験のことです。 |
| ③ 時間(Time) | 実習や通学のために休職・退職する覚悟があるか? | 夜間・通信制でも実習は必須。長期休職が可能か確認。 |
| ④ 市場ニーズ(Market) | その資格は自分の目指す分野で評価されるか? | 例・・・ST×看護師は病院で高評価、教育現場では限定的。 |
この4軸をもとに「目的→コスト→時間→市場」の順で検討すれば、感情を除いた根拠のある意思決定ができるでしょう。
ダブルライセンスの道は決して簡単ではありません。
時間もお金もエネルギーもかかりますが、それだけに得られるものも大きい挑戦です。
焦らず、一歩ずつ。あなたのペースで、納得のいく未来を作ってください。


