近年は、病院や療育施設だけでなく、保育園・学校・放課後等デイサービスなど、言語聴覚士が小児分野で活躍できる場は広がっています。
さらに「認定言語聴覚士(小児領域)」といった専門資格の制度も整備され、スキルアップやキャリア形成の道も多様になってきました。
この記事では、小児分野で働く言語聴覚士の役割・必要なスキル・職場ごとの特徴について詳しく解説します。
小児分野の言語聴覚士とは?
小児分野の言語聴覚士は、ことばの発達やコミュニケーション、食べることに課題を抱えるこどもたちを支援するリハビリテーションの専門職です。国家資格である「言語聴覚士」の免許を持ち、医療、療育、教育といった幅広い現場で、こども一人ひとりの成長に寄り添い、その子らしい生活が送れるようサポートします。
対象年齢と関わる症状・障害
小児言語聴覚士が支援するのは、乳幼児から学童期、思春期まで幅広い年齢のこどもです。主な課題は次の通りです。
【ことばの課題】
・言語発達遅滞
ことばの理解や表出が年齢に比べて遅れる状態です。例えば、単語は話せるが二語文にならない場合があります。
・構音障害
特定の音を誤って発音したり、全体的に発音が不明瞭だったりします。例えば「さかな」が「たかな」になることがあります。
・吃音
「ぼ、ぼ、ぼくが…」のように音を繰り返したり、ことばが詰まったりして、滑らかに話すことが難しい状態です。
・学習障害(LD)
知的発達には遅れがないものの、読む・書くなど特定の学習に困難がある状態です。
【きこえの課題】
・聴覚障害
生まれつきや後天的な難聴によってことばやコミュニケーションに影響が出ます。補聴器や人工内耳による支援も行います。
【食べることの課題】
・摂食嚥下障害
食べ物をうまく噛めない、飲み込めない、むせやすいなどの状態で、安全に楽しく食事できるよう支援します。
【発達障がいに伴う課題】
自閉症スペクトラム障害(ASD)やADHDなどの特性により、他者とのコミュニケーションや社会性に困難がある場合も支援対象です。
認定言語聴覚士とは?小児領域の専門資格について
言語聴覚士(ST)は国家資格ですが、さらに専門性を高めるために 日本言語聴覚士協会が認定する「認定言語聴覚士」 という制度があります。
認定言語聴覚士は、特定の分野で高度な知識や技術を持つことを公式に証明するものです。
小児領域での代表的な認定分野
小児分野に関連する認定分野には、主に以下の2つがあります。
-
吃音・小児構音障害領域
こどもの発音の誤りや、言葉がスムーズに出てこない吃音に特化した専門的な支援知識・技術です。 -
言語発達障がい領域
言語発達の遅れがあるこどもへの評価や指導法に特化した専門領域です。
取得条件
認定言語聴覚士になるには、以下の条件を満たす必要があります。
-
国家資格「言語聴覚士(ST)」を取得済み
-
協会指定の講習会を受講
-
臨床経験5年以上
-
認定試験に合格
取得すると「認定言語聴覚士(吃音・小児構音障害領域)」などと名乗ることができ、専門性の高さを示せます。
用語が似ていますが、まとめると以下のようになります。
用語 | 意味 |
---|---|
言語聴覚士(ST) | 国家資格。医療・教育・療育の現場で、ことばや聴覚の専門支援を行う |
認定言語聴覚士 | STの上位認定。特定分野に特化した知識・技術を持つことを証明 |
認定分野 | 専門性を発揮できる領域(小児構音障害、吃音、言語発達など) |
働く現場ごとの言語聴覚士の役割
言語聴覚士の働き方は、現場によって大きく異なります。
医療機関では、病気や障害に応じた評価・訓練が中心です。
療育施設や放課後等デイサービスでは、あそびや日常生活の中でこどもの発達を支援することが多く、保護者への助言も大切な仕事です。
学校やことばの教室では、教育現場の一員として学習や生活の中でことばの支援を行います。
同じ言語聴覚士でも、働く場所によって役割や関わり方が変わるため、自分に合った働き方を選ぶことが重要です。
働く場所 | 対象年齢・症例の傾向 | 主な役割 |
---|---|---|
医療機関(病院・クリニック) | 新生児~学童まで。口唇口蓋裂、脳性麻痺、周産期の問題などの疾患を持つこどもが中心 | 医師の指示に基づき、病気や障害に応じた評価・訓練を行います。摂食嚥下障害や医療的管理が必要なケースにも対応します。 |
療育施設・放課後等デイサービス | 未就学児が中心。発達障がいや発達に遅れのあるこども | 個別支援計画に沿った発達支援を行います。あそびや集団活動を通して、ことばやコミュニケーション能力を育てます。保護者への日常生活の助言も重要です。 |
教育機関(学校、ことばの教室) | 学齢期のこども。構音障害、吃音、学習障害など | 学習や生活の中でことばのサポートを行います。担任やクラスの先生への助言、学級環境の調整など教育的視点で支援します。 |
小児言語聴覚士の仕事内容と1日の流れ
小児言語聴覚士の仕事は、こどもへの直接的な訓練だけでなく、評価、保護者との連携、記録作成など多岐にわたります。
小児言語聴覚士の1日のスケジュール
勤務先によって異なりますが、療育施設で働く言語聴覚士の一般的な1日の流れは以下のようになります。
児童指導員や保育士など他職種のスタッフと、その日に利用するこどもたちの情報や体調、支援上の注意点などを共有します。
こどもと1対1で、ことばの発達を促す訓練や発音練習などを行います。あそびやゲームの要素を取り入れ、こどもが楽しく取り組めるよう工夫します。
集団でのあそびや活動に参加し、他のこどもたちとの関わり方やコミュニケーションの様子を観察します。
保護者と定期的に面談し、訓練の進捗状況やこどもの成長を報告します。家庭での関わり方なども具体的に助言します。
その日の訓練内容やこどもの反応を記録し、個別支援計画の見直しや作成を行います。
他職種のスタッフと、その日のこどもの様子や支援内容について情報を共有し、次の支援に活かします。
こども・保護者との関わり方
こども一人ひとりの発達段階や個性に合わせた対応と、保護者との密な連携が支援の要となります。
こどもとの関わり方
こどもが「楽しい」「できた」と感じられる経験を積み重ね、自信を持ってコミュニケーションが取れるようになることを目指します。
・発語遅延(言語発達遅滞)
絵カードや好きなおもちゃを使い、あそびの中で「ブーブー、きたね」「ワンワン、いた」など、具体的な事物とことばを結びつける体験を促します 。
・吃音
話しやすくなるための練習だけでなく、安心して話せる関係性を築き、心理的なサポートも重視します 。
・発達障がい
視覚的な手がかり(絵カードや写真など)を用いて活動の流れを伝えたり、ソーシャルスキルトレーニング(SST)で友達との関わり方を一緒に考えたりします 。
保護者との関わり方
保護者が安心して子育てに取り組めるよう、専門的な視点からサポートします。
・情報提供と助言
こどものコミュニケーションの特性を分かりやすく説明し、家庭でできる具体的な声かけやあそびの工夫などを伝えます 。
・傾聴と共感
子育ての悩みや不安に耳を傾け、保護者の気持ちに寄り添うことも大切な役割です 。
・ペアレント・トレーニング
保護者向けのプログラムを実施し、こどもとの肯定的な関わり方を学び、子育ての自信を高める支援を行うこともあります。
小児言語聴覚士に求められるスキル
小児言語聴覚士は、専門的な知識や技術だけでなく、こどもや保護者とじっくり向き合える資質も求められます。
コミュニケーションスキル
さまざまな立場の人と円滑に関係を築き、情報を的確に伝える能力が大切です。
・こどもへの対応
ことばでうまく表現できないこどもの気持ちやサインをくみ取り、信頼関係を築く力
・保護者への対応
専門的な内容もわかりやすく説明し、不安に寄り添いながらサポートする姿勢
・多職種との連携
医師や保育士、教員などと情報を共有し、チームでこどもを支える協調性
観察・分析スキル
こどもの状態を正確に把握し、適切な支援につなげる力が必要です。
・観察力
あそびや会話の中での表情やしぐさ、ことばの変化を見逃さない注意力
・分析力
検査結果や日々の観察から困難の背景を考え、一人ひとりに合った支援計画を立てる思考力
忍耐・柔軟性
こどもの成長は一人ひとりペースが異なるため、長期的な視点で支える姿勢が重要です。
・忍耐力
すぐには成果が出なくても焦らず、根気強くこどもと関わる力
・柔軟性
その日のこどもの状態に応じて支援方法や計画を柔軟に変える判断力
小児分野の言語聴覚士が働く場所
小児分野の言語聴覚士は、医療・療育・教育の各現場で活躍しています。
それぞれの職場で役割や求められるスキルには違いがありますが、どの現場でもこどもの成長を支える重要な存在です。
医療現場(病院・クリニック)
病院やクリニックでは、口唇口蓋裂や脳性麻痺、周産期に関連する疾患など、幅広い症例の評価や訓練を行います。
医師や看護師と密に連携しながら専門性を発揮できる一方で、小児専門でない場合には成人患者も担当することがあり、緊急対応が求められる場合もあります。
・口唇口蓋裂・・・唇や口の中の骨が生まれつき裂けている状態
・脳性麻痺…生まれつき脳の運動機能に障害がある状態
・周産期に関連する疾患…出生前後に起こるさまざまな健康上の問題
児童発達支援・放課後等デイサービス
児童発達支援施設では、未就学児を対象に発達支援や生活支援を行います。
あそびや集団活動を通してこどもと長期的に関わることができ、日々の成長を間近で見守れるため、やりがいを感じやすい環境です。
放課後等デイサービスでは、主に小学生以上のこどもを対象に、放課後や長期休暇中に発達支援を行います。
学習支援や運動・あそびを通じて社会性や生活スキルの向上をサポートします。
基本的にSTが少人数配置であることから、自分で療育方針を考え、試行錯誤しながら実践できるため、経験値を大きく積みやすい環境でもあります。
詳しくは、[こどもプラスの言語聴覚士求人一覧]をご覧ください。
※求人一覧にない教室もご紹介することが可能です。お気軽にお問い合わせください
教育機関(学校・ことばの教室)
学齢期のこどもを対象に、日常生活や学習の中で支援を行います。在籍学級の担任への助言や環境調整など、教育的な視点からの支援が求められます。
インクルーシブな環境でこどもの生活全体に関わることができます。
障害のあるこどももないこどもも同じ教室や活動の中で学び・生活できる環境のことを指します。小児言語聴覚士は、個々の特性に応じた支援を行いながら、こどもの生活全体をサポートします。
ただし常勤配置はまだ少なく、非常勤(アルバイト・パート)や巡回指導(業務委託) の形態が多いのが現状です。
キャリアパスの例
現場で経験を積むことで、さまざまなキャリアを選択できます。
・管理職へのステップアップ
放課後等デイサービスでは、現場での経験を活かして言語聴覚士でも児童発達支援管理責任者になることが可能です。
管理職としては、スタッフの指導や支援計画の管理など、施設運営に関わる重要な役割を担います。
管理職になると、責任ある立場として給与も向上し、施設規模や地域によりますが、一般スタッフよりも数万円〜数十万円のアップが期待できます。
また、マネジメント経験を積むことで、複数施設の管理や事業所運営のコンサルティングなど、キャリアの幅を広げることも可能です。
・専門性の追求
認定言語聴覚士の資格を取得するなど、特定分野(例:吃音、聴覚障害)のスペシャリストとして臨床や研究、後進の指導にあたります。
・フリーランス・独立開業
「ことばの教室」や「発達支援ルーム」を自ら開業する言語聴覚士も増えています。公的保険の枠にとらわれず、早期支援や保護者向け講座など柔軟なサービスを提供できます。複数施設と業務委託契約を結び、フリーランスとして活動する働き方もあります。
小児分野での言語聴覚士の専門性への期待はますます高まっています。今後は、教育現場への配置拡充も進むと考えられ、言語聴覚士が活躍できる場はさらに広がっていくでしょう。